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Wi-Fiと5Gの将来性

 携帯電話の通信速度や通信品質を大きく向上させる5G(第5世代移動通信システム)の普及が迫ってきました。サービスは既に一部の国で開始され始めましたが、日本で一般に普及してくるのは2020年頃とされています。5Gへのシフトにより、①高速大容量化、②多数端末の同時接続化、③超低遅延化、④省電力化、が進むと期待されています。

 これにより、これまでになかった新たなインターネットの使い方への期待も高まっています。具体的には、自動運転や遠隔医療といった領域において長足の進歩が進むと考えられています。また、工場などにおけるIoT(モノのインターネット)による機械の制御も浸透していきます。そして当然ですが、当社がターゲットしている一般のユーザーに対しても、よりスムーズな情報通信環境が提供されることになるでしょう。

 これを受けて、「5Gの世界においてWi-Fiは必要なくなるのでは」といった見方をなされることがあります。確かに大容量化・高速化・低遅延化という5Gの特色は、現在のWi-Fiの主流規格であるWi-Fi4(IEEE802.11n)、Wi-Fi5(IEEE802.11ac)のスペックを上回るものとなっており、これだけを見ると5Gの浸透はWi-Fiのマーケットを圧迫する可能性が否めないように思えます。実際、地域のローカルニーズに基づく比較的小規模な通信環境の構築といったローカル5Gという構想も存在しており、それらがWi-Fiに置き換わるのではという予想も一部ではあるようです。

 しかし、そういった5Gの普及した時代においても、Wi-Fiの需要は依然として十分にあると当社は考えています。その理由は以下の3点です。まず、いかに5Gが素晴らしい技術であるとしても、広くあまねくインフラが普及するまでには相当の時間とコストがかかると考えられるからです。一方、ユーザーからすれば、高い機能の可及的速やかな提供を通信キャリアに要求するのは当然であるため、キャリアの5Gサービス提供が遅くなれば、より高いサービスを提供できるキャリアへと乗り換えていく動きが出てくることでしょう。結果的に、キャリアは顧客の囲い込みのためにも、かなりの費用をかけて設備投資を急ピッチで進める必要があります。ところが政府主導で通信料金の引下げ圧力が増す中、この先行投資はキャリアにとって非常に大きな負担になってくる可能性があります。とすれば、キャリアは全てを5Gで対応させるよりも、Wi-Fiなど他の通信技術も併用しながらより短期間で構築する方法を模索するだろうと推測されます。

 第2の理由は、Wi-Fiの側にもテクノロジーの進化があることです。現在の主流となっている規格は確かに5Gに見劣りするものですが、既に5Gに匹敵するスペックであるWi-Fi6(IEEE802.11ax)が次世代標準規格として設定されています。Wi-Fi6に対応したデバイスも既に市場に投入されつつあり、5Gが導入される2020年には普及が本格化してくることでしょう。スペックの差という点でWi-Fiの需要が圧迫されるという憶測は、必ずしも成りたないのではないかと見ています。

 第3の理由は、価格です。今春、通信キャリアは大容量定額制の料金体系を相次いで打ち出しましたが、それでも使用できるパケット量には上限があります(上限を超えると、通信制限や追加費用が発生します)。上限なしの無制限というプランも一部には登場していますが、その分料金が高めの設定となっており、やはりユーザーにとっては通信料金に対する負担感をなかなか払拭できない状況が続いています。これに対し、Wi-Fiでの通信を選択すれば、パケット数制限や料金負担の大幅な抑制が可能です。(5GとWi-Fi6で)同じサービス水準を受けることができるのであれば、安価で簡単な方を選択するというユーザーは多いことでしょう。

 これらのことを勘案すると、5GがWi-Fiの市場を取り込んでしまうのではなく、5GとWi-Fiは共存し、互いに補完し合う関係となる公算が高いと考えられるのです。既にWi-Fiデバイスはグローバルで100億ベースに迫る規模で設置されており、2020年には130億ベースに達するといった予測もなされています。その拡大ピッチは明らかに年々加速してきており、5Gの普及期を迎えようとしている現在も減速の気配はありません。キャリアもユーザーも、より合理的で経済的で現実的な選択をするという流れが出来上がりつつあると言えるでしょう。その結果、「外では5G、屋内(限定した地域)ではWi-Fi」といった棲み分けが進展する、と当社では予想しています。

 もちろん、5Gの普及は当社にとっても大きなビジネスチャンスとなります。データ通信のストレスが一層緩和されれば、その利用頻度はさらに増加すると思われます。5Gと歩調を合わせるようにWi-Fi6へのアップグレード需要も着実に増えてくるはずです。そういったビジネスチャンスに備えるためにも、当社ではお客様への利便性の一層の改善や安価で機能的なWi-Fi機器の製造に注力してまいります。5Gは通信業界を激変させる可能性を秘めた技術ですが、そこでもしっかり業界ポジションを確立することが当社にとっても非常に重要であると考えています。

 また、より長期的には、前述の(外と部屋の中の)棲み分け議論は、長距離と短距離で通信手段の棲み分けが明確化してくるという流れを示唆しています。ここでいう短距離とは、データ伝送の「最初と最後の数メートル」とでも言えるもので、一般ユーザーにおいては、PCや携帯端末から近くのアクセスポイントまでの通信手段と位置付けられます。現在、この距離は有線もしくは無線で接続されており、この無線機能の一つがWi-Fiという位置づけです。

 そして、データはこの短距離部分を通過し、やがて高速道路に相当する長距離部分へと抜けて行きます。現在、この長距離部分は光ファイバー網などによる幹線ネットワークや衛星通信などが担っています。つまり、通信はこの幹線系(長距離)の設備と支線系(短距離)の設備がセットで必要なのです。

 しかし、明らかに幹線系と支線系では求められる機能が違います。高速道路を走るのに最適なシステムが、決して路地を走るのに最適とは言い難いものであることはご理解いただけると思います。当然、それぞれに適した設備・機能が追求されるはずです。このように、5GとWi-Fiがそれぞれの特徴を活かし、適材適所に活用されていくものと考えています。そして、当社はここにこそ、自社の存在意義を見出しているのです。